甘酸っぱい気持ち

少し前にDTM関係でちょっとした出会いがありました。それはプラグインとの出会いです。それはONKIO Acousticsです。これは銀座にある音響ハウスという有名スタジオの響きを再現してくれるプラグインです。

プラグインに対して出会いというのは大袈裟と思われる方がいらっしゃると思いますが、僕がスタジオミュージシャンとしてギターを弾かせてもらっていた頃(そんなこともさせてもらってたんです)に何度も録音したのがこの音響ハウスでした。収録の中で今でも覚えているのがこの曲です。当たり前ですが今聴いても自分のギターだとわかります。

ONKIO Acousticsのプラグインを起動するとスタジオの平面図が表示されます。それを見ていると「ああ、ここのブースに入って弾いたっけ」とか「あの頃はなんだかよくわからないコードネームがあったのによくやっていたもんだ」とかいろいろ思い出してしまいました。なので「出会い」という感じがしたんです。久しぶりに甘酸っぱい気持ちになりました。

このプラグインには試用期間があるので早速DLしました。これは簡単に言えば原音に部屋の響きを加えてくれるプラグインです。往年のスタジオの響きですので、今時の音楽には合わないのかもしれませんが、僕にはなんだかフィットしてしまいます。

実は2,3年前にナレーションの仕事で久しぶりに音響ハウスに行きました。若かった頃はもっと大きなスタジオだったように感じたのは、小学校を訪ねて感じる大人のサイズ感に似ているかもしれません。

もちろん若かりし頃と体格がそれほど変わっているわけではありませんが、当時はミュージシャンとしてのスキルもメンタルも小学生のような時代でした。

その頃のスタジオミュージシャンのレコーディングというのは、アーティストと曲名くらいを教えられて(教えられないこともありました)スタジオへ行って、そこで譜面を渡されて即レコーディングです。準備ができたら音を出しながら微調整をして本番になります。最低でも初見で弾けることが求められるわけです。

レコーディングが終わると、納得のいく演奏ができてもできなくても現場でギャラをもらって帰りました。今では考えられないですね。ギャラの封筒を手に「ああすればよかった、あそこがどうしてもっと上手くできなかったんだ・・・」なんて悶々としながら地下鉄を待っていた時の気持ちと光景が今でもまざまざとよみがえってきます。

レコーディングの回を重ねる度に慣れるどころか、戸惑いの気持ちが大きくなってきて、確か「夜のヒットスタジオ」での生演奏のオファーをお断りしてしまったのが、スタジオミュージシャンとしての最後になったように思います。あの頃の気持ちを思い返すと今でも辛くなります。

今回はひょんなことからONKIO Acousticsに出会い、悲喜交々のノスタルジックを味合わせてもらいました。

ところで国産のこのようなプラグインは他にはないのではないかと思います。よく出入りしていた頃から50年近くが過ぎて、僕はこのプラグインをちゃんと使える人になっているのかなあ。