俺もそこそこ演れるなあ・・・

若い頃のレコーディングの現場ではデジタルレコーディングではなくテープに録音をしていました。なのでここからここまでをやり直したいということになると、アシスタントエンジニアが音を聴きながらテープのRECボタンをオンオフしていました。これをパンチイン、パンチアウト、と言います。

ところがテープレコーダーというのはレコーディングヘッドと再生ヘッドが別なので聴いている音とレコーディング開始の同じ場所ではないのです。さらにその時のテープスピードの違いもあります。例えばドレミファのミの音だけ録音しなおしたいとなればドレの後に録音ボタンを押してファの前に止めるわけです。これは職人技でして素人が手を出せるものではありませんでした。デジタルレコーディングと違って前後が消えたらUNDOはできませんからね。

で、当時のスタジオでたまに聞こえてきたのが「ベースさんもう帰った?もう一度弾いてもらいたいんだけど・・・」なんていう声です。この当時はテイクがNGならばもう一度弾くしかリカバリーの方法はありませんでした。

ところがデジタルレコーディングの時代になってUNDOはできるし様々な調整、変更が可能になってきたので、レコーディングエンジニアの仕事が半端なく増えたのではないかと思います。

歌声ペトラの曲の256曲制覇を目指したレコーディングも半分まで来ました。今はエンジニアの立場でミックスをすると言うことに取り組み始めました。要はミスがあったり改善の余地のある演奏ならば良くしてあげると言うことです。

この良くしてあげると言うのは愛情の問題になってきます。それはそのアーティストへの愛、さらに音楽への愛です。もちろんエンジニアとしての誇りも関係しているでしょうが、愛がなければ必要以上に頑張ることはないのではないかと思います。

自分で体験してみると色々なことがわかるものです。これまで当たり前のようにしてきたレコーディングの隠れたところで、エンジニアさんたちがどれだけの作業をして作品にしてくれていたのかが少しわかるようになってきました。

なので今はこれまでお世話になったエンジニアさん達に「ありがとうございました」「お世話になりました」を言いたい気持ちがいっぱいです。

「俺もそこそこ演れるなあ・・・」なんて一度でも思ったことがある自分が恥ずかしいです。